芥川賞2025下半期の候補が発表され、ふと目に留まった名前、畠山丑雄さん。
「改元」「叫び」という強い言葉を冠した作品は、なぜ今、評価されたのでしょうか。
畠山丑雄さんの小説は、派手な事件や劇的な展開を描くものではありません。
けれど、読み進めるうちに、心の奥にしまい込んできた感情が、静かに揺さぶられていくんですよね。
この記事では、畠山丑雄さんの経歴を軸に、『改元』『叫び』という作品がどのように評価され、第174回芥川賞候補に選ばれたのかを、やさしく紐解いていきます。
作品の背景や、noteに綴られた言葉に触れることで、物語の温度が少し変わって感じられるかもしれません。
もし気になる一冊があれば、KindleやAudibleで、今の生活に合った形で読書を続けてみてくださいね。
畠山丑雄の経歴

畠山丑雄(はたけやま・うしお)さんは、1992年大阪府吹田市出身。
京都大学文学部を卒業後、2015年に「地の底の記憶」で文藝賞を受賞し、文壇に登場しました。
畠山丑雄さんの作品に共通しているのは、声高な主張ではなく、沈黙のなかに滲む感情です。
登場人物たちは、何かを失い、あるいはうまく言葉にできない違和感を抱えながら、日常を生きています。その姿が、とても現実的なんですよね。
派手さはないのに、読み終えたあと、しばらく心に残る。
それが、畠山丑雄という作家の大きな特徴だと思います。
『改元』とは何を描いた作品か

2025年、『改元』は三島由紀夫賞候補作として注目を集めました。
この作品が描くのは、時代が切り替わる瞬間に生まれる、個人のズレや戸惑いです。
元号が変わるという出来事は、社会にとっては大きな節目ですが、個人の感情は必ずしも追いつきません。
『改元』では、その取り残される感覚が、とても静かな筆致で描かれているんですよね。
読みながら、「自分も、何かを置き去りにしてきたのかもしれない」と、ふと立ち止まらされます。
この感覚の確かさこそが、文学賞で評価された理由なのだと思います。
『叫び』が芥川賞候補になった理由

『叫び』は、第174回芥川賞候補作として名前が挙がった作品です。
タイトルから想像されるような激しさは、実はありません。
けれど、物語の奥では、長い沈黙の末にようやく形を持ち始めた感情が、確かに存在しています。
社会や他者に向けて叫ぶのではなく、自分自身の内側に向けた「叫び」ーその描き方が、とても誠実なんです。
『改元』で描かれた違和感が、『叫び』で一歩、言葉へと進んだ。
そう考えると、芥川賞2025下半期候補として評価された流れも、自然に見えてきます。
畠山丑雄のnoteから見える人物像|作品の外にある思考

畠山丑雄さんは、noteでも文章を発信しています。
そこに綴られているのは、作品解説ではなく、日々の思考や、言葉に対する距離感です。
小説と同じように、断定的な言い方はほとんどありません。
迷いながら、考えながら、書いている。
その姿勢が、そのまま作品にもつながっているように感じるんですよね。
noteを読むことで、『改元』や『叫び』の行間が、少しだけ明るくなる。
人物としての畠山丑雄さんを知りたい人にとって、大切な手がかりになる場所です。
〈読書メモ〉
実は私自身、畠山丑雄さんのnoteもいくつか読んでみたんです。
なかでも印象に残ったのが、「丑雄」という名前の由来について綴られた文章でした。
名前にまつわる少し個人的な話でありながら、そこには、言葉や立場に対する畠山さん自身の距離感や覚悟のようなものが静かに滲んでいて、思わず引き込まれてしまったんですよね。
作品だけでなく、その名前に込められた思いを知ることで、『改元』や『叫び』に通底する感覚が、少しだけ近くなった気がしました。
※畠山丑雄さんご本人の言葉は、noteでも読むことができます。
▶︎https://note.com/hatakeyamaushio
芥川賞2025下半期候補作を読むという体験
芥川賞候補作を読むことは、順位や受賞結果を追うことではありません。
その時代に、どんな言葉が生まれているのかを、静かに感じ取る体験なんですよね。
👉 芥川賞・直木賞2025下半期【候補一覧】第174回の発表日・選考委員・読むべき理由も
畠山丑雄さんの作品は、その入口として、とてもやさしい存在だと思います。
畠山丑雄を深く知るための代表作3冊
ここからは、畠山丑雄さんという作家の歩みと作風を、作品を通してたどっていきます。
文藝賞受賞作『地の底の記憶』、転換点となった『改元』、そして第174回芥川賞候補作『叫び』――。
それぞれの物語には、時代や土地、言葉にならなかった感情が静かに刻まれているんです。
まずは気になる一冊から、今の自分の感覚に近い物語を選んでみてください。
地の底の記憶
<文藝賞受賞作・すべての始まり>
『地の底の記憶』は、畠山丑雄さんが文藝賞を受賞したデビュー作であり、作家としてのすべての始まりとも言える一冊です。
静かな語りのなかで描かれるのは、過去に沈んだままの感情と、それを抱えながら生きる人々の姿なんです。
舞台は、電波塔がそびえ立つ架空の地方都市。
物語は、小学生の晴男と井内という同級生二人が、森で迷った末に、青田という謎めいた青年と、その「妻」と呼ばれる美しい人形に出会うところから始まります。
森の小屋に暮らす青田の周囲には、ラピスラズリの青い輝きや、町の噂を集めて放つかのような電波塔など、どこか異界めいた気配が漂っています。
少年たちは彼との交流を通して、町に百年以上積み重なった戦争や産業、家族の秘密といった「地の底の記憶」へと、少しずつ導かれていくのです。
現実の地方都市の風景に幻想的なイメージが重なり、物語はやがて「町そのものの記憶」を読む感触へと変わっていきます。
派手な展開はありませんが、読み進めるほどに心の奥がじんわりと温まり、この一冊を読むと、なぜ畠山丑雄さんが書き続けてきたのかが、自然と伝わってくるんですよね。
改元
<三島由紀夫賞候補・転換点の物語>
『改元』は、時代の節目に置き去りにされる個人の感情を、静かに、しかし確かな手触りで描いた作品です。
三島由紀夫賞候補となったのは、この「違和感」を描く精度の高さゆえだと思います。
物語は、平成から令和へと改元された年、山奥の小さな町に異動してきた公務員の「私」を語り手として始まります。
空き家の下見や地域挨拶を重ねるうち、「私」は集落を取り仕切る有力者や癖のある住民たちと出会い、この土地に、現実の制度とは別に、地下水脈のように息づく「もう一つの天皇制」が存在しているらしいことを知っていきます。
古い祭祀や血縁、役職が、目に見えない「継承」の網の目として人々を縛り、その圧力は、外部から来たはずの「私」をも、知らず知らずのうちに巻き込んでいくのです。
現実的な地方行政の描写に、儀礼的で象徴性の強い場面が折り重なるマジック・リアリズム的な筆致によって、個人の人生がいつの間にか「歴史」や「物語」の一部へと組み込まれていく過程が浮かび上がります。
読み終えたあと、「自分は何を引き継ぎ、何から逃れられないのか」と、静かな問いが残るんです。
その余韻こそが、『改元』が高く評価された理由であり、畠山丑雄という作家の現在地を示す一冊だと言えます。
叫び
<第174回芥川賞候補作>
『叫び』は、第174回芥川賞候補として評価された作品です。
声にならなかった感情が、ようやく形を持ち始める 。その瞬間が、静かに、しかし確かな手触りで描かれています。
物語の舞台は大阪府茨木市。生活が行き詰まり、自暴自棄気味に暮らす早野ひかるは、ある夜、遠くから響いてくる鐘の音に導かれるようにして、一人の男と出会います。
生活保護を受けて暮らすその男は、ひかるの心の弱さや「負い目」を鋭く見抜き、容赦なく否定していきますが、不思議とその言葉は、ひかるの心を軽くしていくんですよね。
やがて彼女はその男を「先生」と呼び、銅鐸づくりを手伝いながら、この土地が背負ってきた来歴や歴史に触れていきます。
茨木から満州へ渡り、阿片や天皇制と深く結びついていた過去。
「陛下への花束」を編むかのような高揚感で満州の大地を罌粟畑に変えていった若者たちの人生に思いを馳せるうち、ひかるは少しずつ「自分がここにいる意味」を見いだしていきます。
そして、自分にとっての「聖」と仰ぐ女性と大阪・関西万博へ行く約束を交わしたとき、昭和と令和、個人の恋と国家の歴史が重なり合い、封じ込められていた「叫び」が、ついにあふれ出すのです。
読み終えたあと、派手な余韻はありません。
けれど、個人の罪責と救済、政治と信仰、日本と大陸といった重たいテーマを、恋という私的な感情の手触りでつなぎ直したこの物語は、確かに何かを心に残します。
その静かな強さと構造の確かさこそが、『叫び』が芥川賞候補作として選ばれた理由なのだと思うんです。
※現在Amazonのみ在庫があるようです。単行本になりましたら、お伝えしますね。
読書の余韻を広げる方法|Kindle UnlimitedとAudibleという選択

忙しい日々のなかでも、読書を続けたい方には、読書サブスクという選択肢もあります。
畠山丑雄さんの書籍には、現時点ではAudible版はありませんが、それでも「耳で読む」という体験そのものは、とてもおすすめなんですよね。
移動中や家事の合間に物語を聴く時間は、文字を追うのとは違ったかたちで、心をゆっくり整えてくれます。
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紙やKindleで畠山丑雄さんの作品を読みつつ、ほかの作家の物語を耳で楽しむ――そんな読書の広げ方も、悪くないですよ。
耳で聴く物語も、心を整える時間になります。
まとめ
畠山丑雄さんの経歴と作品をたどると、『改元』『叫び』が芥川賞候補に選ばれた理由が、少しずつ見えてきます。
それは声高な主張ではなく、言葉にならない感情に誠実であり続けたこと。
気になる一冊があれば、KindleやAudibleで、今のあなたに合う形で触れてみてくださいね。
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