こんにちは。松風知里です。
科学の話なのに、読み終えたあとに残るのは、人の気持ちだったりする。
伊与原新さんの小説には、そんな不思議な魅力があります。
宇宙、地球、岩石、雪、隕石、ウミガメ。
一見すると少し難しそうな題材も、物語の中では、悩みながら生きる人たちの人生と静かにつながっていくんですよね。
2025年には『藍を継ぐ海』で第172回直木賞を受賞。2026年には『宙わたる教室』の続編『コズミック・ガール 宙わたる教室』も刊行されました。
この記事では、初めて伊与原新さんを読む方にもおすすめしたい文庫5冊と、直木賞受賞作『藍を継ぐ海』、2026年の最新刊までご紹介します。
この記事でわかること
- 伊与原新さんはどんな作家?
- 初めて読む方にもおすすめの文庫5選
- 『藍を継ぐ海』全5編の魅力
- 2026年最新刊『コズミック・ガール 宙わたる教室』
伊与原新とは?科学を物語にする作家
研究者として培った科学の視点と、人間の心の揺れを結びつけて描く作家です。
伊与原新さんは1972年、大阪生まれ。
神戸大学理学部を卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程を修了しました。
その後は研究者として活動し、2010年、『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞して小説家デビュー。
『月まで三キロ』『八月の銀の雪』『宙わたる教室』などを発表し、2025年には『藍を継ぐ海』で第172回直木賞を受賞しています。
科学を「知識」として見せるのではなく、私たちが生きている世界を少し違った角度から眺めるために使っている。
そこが、伊与原新さんの作品のおもしろさだと思います。
研究者時代や富山大学での経歴については、こちらで詳しく紹介しています。▶伊与原新は富山大学勤務だった?研究者から作家へ転身した経歴・本名を解説
伊与原新のおすすめ文庫5選
初めての一冊に向く作品から、青春小説、科学ミステリーまで選びました。
1.『月まで三キロ』|初めて読むならこの一冊
初めて伊与原新さんを読む方に、まずおすすめしたいのが『月まで三キロ』です。
人生に行き詰まった人、うまく誰かとつながれない人。
そんな人たちの日常に、月や火山、アンモナイトといった科学の世界がふっと入り込んできます。
科学が悩みを都合よく解決してくれるわけではありません。
でも、自分の苦しさを、地球や宇宙の大きな時間の中から眺めてみると、少しだけ違った景色が見えることがあるんですよね。
2019年に新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞。2021年に新潮文庫になっています。
2.『八月の銀の雪』|科学と人の心が交わる短編集
『八月の銀の雪』も、伊与原新さんらしさがよく感じられる短編集です。
地球の内部、クジラ、珪藻など、さまざまな自然科学が登場します。
でも、物語の中心にいるのは、仕事、人間関係、将来に迷うごく普通の人たちです。
知らなかった世界について知ることで、自分の世界の見方まで少し変わる。
そんな読書の楽しさが詰まっています。
第164回直木賞、第34回山本周五郎賞の候補となり、2021年本屋大賞では6位。2023年に新潮文庫になりました。
3.『宙わたる教室』|今こそ読みたい青春科学小説
東京・新宿の定時制高校を舞台にした青春小説です。
年齢も育った環境も違う生徒たちが、理科教師・藤竹叶と出会い、科学部で「火星のクレーター」を再現する実験に取り組みます。
学ぶことは、成績を取るためだけのものではありません。
「自分にもできるかもしれない」
そう思えることが、人を前へ動かすこともあるんですよね。
2024年にはNHKでドラマ化され、2026年3月4日に文春文庫版が発売されました。
そして現在は続編も出ています。
4.『青ノ果テ―花巻農芸高校地学部の夏―』|地学×青春を楽しみたい方へ
舞台は岩手県花巻。
高校の地学部を舞台に、若者たちの友情や悩み、土地と自然とのつながりを描きます。
地学というと少し堅そうですが、登場人物たちと一緒に土地を歩いているうちに、
「この景色は、どうやってできたんだろう?」
と自然に知りたくなってくるんです。
青春小説を読みながら地球の長い時間にも触れられる、伊与原作品らしい一冊です。
現在は新潮文庫nexで読むことができます。
5.『磁極反転の日』|科学ミステリーを読みたい方へ
もう少し科学色の強い作品を読みたい方には、『磁極反転の日』もおすすめです。
タイトルにある「磁極反転」とは、地球の磁場が大きく変化する現象。
伊与原新さん自身が研究していた地球磁場の世界ともつながる題材です。
科学的なテーマと危機を描く物語が組み合わされているので、「科学×ミステリー」が好きな方には入りやすい一冊。
2017年に新潮文庫として刊行されています。
第172回直木賞受賞作『藍を継ぐ海』
『藍を継ぐ海』は2024年9月26日に刊行され、2025年1月、第172回直木賞を受賞しました。
現在は最新刊ではありませんので、旧記事の「最新刊」という表記は外しましょう。
収録されているのは、
「夢化けの島」
「狼犬ダイアリー」
「祈りの破片」
「星隕つ駅逓」
「藍を継ぐ海」
の5編です。
「夢化けの島」
山口県の島を舞台に、地質と萩焼の土をめぐる物語。
土地の歴史を科学の目でたどっていくと、人間の時間をはるかに超えた地球の時間が見えてきます。
伝統工芸と地質学が思いがけないところでつながるところも、伊与原さんらしいんですよね。
「狼犬ダイアリー」
奈良の山村で、絶滅したはずのニホンオオカミの痕跡を追います。
「人間の側から自然を見る」だけではなく、人間も自然の一部なのだという感覚が、少しずつ浮かび上がってくる物語です。
「祈りの破片」
家に残された岩石、瓦、ガラスなどの「破片」から、その土地が抱えてきた過去をたどっていきます。
科学的に調べることと、人の記憶を受け継ぐこと。
その二つが静かに重なる一編です。
「星隕つ駅逓」
北海道を舞台に、隕石と土地の記憶を描きます。
科学的には「どこに落ちたか」が大切でも、人にはその土地に名前を残したいという思いがあります。
事実と人の思いのあいだで揺れる物語です。
「藍を継ぐ海」
表題作では、徳島の海辺でアカウミガメの卵を孵化させようとする少女が描かれます。
ウミガメは遠い海へ旅立ち、いつかまた同じ浜へ戻ってくるかもしれない。
人間の一生よりも長い自然の時間に触れることで、主人公の世界も少しずつ広がっていきます。
『藍を継ぐ海』全体に流れているのは、科学そのものよりも、自分よりはるかに大きな時間の中で生きていることに気づく感覚なのだと思います。
伊与原新の2026年最新刊は『コズミック・ガール 宙わたる教室』
2026年9月現在、最新刊は『コズミック・ガール 宙わたる教室』です。
2026年4月22日に文藝春秋から刊行されました。
『宙わたる教室』の続編で、前作から6年後の東新宿高校定時制が舞台。
かつて活躍した科学部はなくなっていましたが、新しい生徒たちが集まり、再び科学へ挑んでいきます。
前作を読んでいる方なら、あの教室へもう一度帰れるのもうれしいところですね。
これから読むなら、
『宙わたる教室』→『コズミック・ガール 宙わたる教室』
の順がおすすめです。
まとめ|伊与原新を初めて読むなら『月まで三キロ』から
伊与原新さんの小説には、科学があります。
けれど、読み終えたときに心に残るのは、人の孤独だったり、誰かとつながろうとする気持ちだったりするんですよね。
初めて読むなら『月まで三キロ』。
青春小説が好きなら『宙わたる教室』。
そして直木賞受賞作を読みたいなら『藍を継ぐ海』。
気になる一冊から、伊与原新さんの「科学と物語」の世界へ入ってみてくださいね。

