朝倉かすみさんの小説には、派手にこちらを揺さぶるというより、日々の暮らしの中にある感情を、そっとすくい上げてくれるようなところがあります。
恋愛、老い、家族、孤独、誰かを待つ時間。
どれも特別なことではないはずなのに、朝倉かすみさんの手にかかると、ふいに胸の奥へ残る物語になるんですよね。
この記事では、朝倉かすみさんの小説から、はじめて読む方にもおすすめしやすい10冊を選びました。
2026年4月に刊行され、第175回直木賞候補にも選ばれた『けんぐゎい』、映画化でも話題になった『平場の月』、本好きにそっとすすめたい『よむよむかたる』など、いま読みたい作品を中心に紹介していきます。
第175回直木賞の選考会は、2026年7月15日に予定されています。
KindleやAudibleで読める作品もあるので、「気になった今、すぐ読みたい」という方の参考にもなればうれしいです。
朝倉かすみとは?
朝倉かすみさんは、北海道小樽市出身の小説家です。
2004年に「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞し、2009年には『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞。
2019年には『平場の月』で第32回山本周五郎賞を受賞しています。
朝倉かすみさんの小説に流れているのは、「普通に生きている人」の奥にある、言葉にしにくい気持ちです。
うまくいかなかった恋。
思い出したくないのに残っている記憶。
年齢を重ねたからこそ見えてくる寂しさ。
それでも、誰かとつながりたいという小さな願い。
大きな事件よりも、ふだんは見過ごしてしまう感情の揺れを読みたい方に、とても合う作家さんだと思います。
朝倉かすみの小説おすすめ10選
ここからは、朝倉かすみさんのおすすめ小説を10冊紹介します。
どれから読めばいいかわからない方は、まずは『平場の月』『よむよむかたる』『けんぐゎい』あたりから入ると、いまの朝倉かすみ作品の魅力に触れやすいと思います。
すでに朝倉かすみさんの作品を読んだことがある方は、近刊や文庫化された作品をたどってみるのもいいですね。
1.『けんぐゎい』|第175回直木賞候補の最新長編
『けんぐゎい』は、2026年4月に光文社から刊行された時代小説です。
第175回直木賞候補作にも選ばれ、いま朝倉かすみさんを読むなら、まず入れておきたい一冊になりました。
舞台は、文政期の江戸。
痘痕のある姉・ふゆと、美しい妹・りよ。
対照的な姉妹の人生を通して、女性たちの生き方や、身体、見た目、社会のまなざしが描かれていきます。
時代小説と聞くと、少し遠い世界の話に感じる方もいるかもしれません。
でも、この作品が描くのは、生まれた場所や性別、身体の特徴によって、人生の選択肢が狭められてしまう痛みです。
昔の物語でありながら、現代を生きる私たちにも重なる部分があるんですよね。
朝倉かすみさんの作品をすでに読んできた方にも、新しい入口として読んでみてほしい一冊です。
こんな方におすすめ
・最新刊から朝倉かすみさんを読みたい方
・直木賞候補作を受賞発表前に読んでおきたい方
・女性の生き方を描く時代小説が好きな方
2.『平場の月』|大人の恋愛小説を読みたい方へ
『平場の月』は、朝倉かすみさんの代表作のひとつです。
2019年に第32回山本周五郎賞を受賞し、同年の第161回直木賞候補にもなりました。映画版は2025年11月14日に公開され、堺雅人さん主演、井川遥さん共演で実写化されています。
物語の中心にいるのは、50代になって再会した男女です。
若い頃のように、勢いだけで恋に飛び込むことはもうできない。
これまでの結婚、仕事、身体のこと、家族のこと。
いろいろなものを抱えたまま、それでも誰かに心を寄せてしまう。
その感じが、とても静かに、でも深く描かれています。
『平場の月』の恋愛は、きらきらした恋ではありません。
生活の中で、ふと相手のことを思う。
一緒にごはんを食べる。
体調を気にかける。
「また会える」と思える時間を大切にする。
そういう、ごく普通のことが、年齢を重ねるほど切実になっていくんですよね。
映画を観てから原作を読むと、人物の言葉の静けさがより深く入ってくると思います。
反対に、原作を先に読んでから映画を観ると、青砥と須藤の沈黙や距離感を、映像でどう受け取るかが楽しみになるかもしれません。
映画化をきっかけに『平場の月』が気になった方は、こちらの記事もあわせてどうぞ。タイトルにある「平場」の意味や、あわせて読みたい作品をまとめています。
▶『平場の月』が心に残った方へ|次に読みたい朝倉かすみ作品5選
こんな方におすすめ
・大人のリアルな恋愛小説を読みたい方
・50代以降の人生や恋を描く作品に惹かれる方
・映画をきっかけに原作も読んでみたい方
3.『よむよむかたる』|本好きにそっとすすめたい読書会小説
『よむよむかたる』は、北海道・小樽の古民家カフェを舞台にした読書会小説です。
喫茶シトロンに集まるのは、78歳から92歳までの高齢者たち。
月に一度の読書会で、本を朗読し、感想を語り合います。
本を読むこと。
読んだことを誰かに話すこと。
誰かの声を聞くこと。
そのどれもが、人の人生を少し照らしてくれるのだと感じられる作品です。
読書会という場は、ただ本の感想を言うだけではないんですよね。
そこには、その人が生きてきた時間や、忘れられない記憶や、うまく言葉にできなかった思いまで、少しずつにじんできます。
本好きの方には、きっと響くところがあると思います。
『よむよむかたる』はAudible版も配信されています。Audibleでは、吉岡琳吾さんのナレーション、再生時間11時間32分のオーディオブックとして紹介されています。
耳で聴く読書会小説、というのも、この作品にはよく合いそうです。
こんな方におすすめ
・読書会や本好きの物語が好きな方
・小樽や喫茶店の空気が好きな方
・Audibleで小説を聴いてみたい方
4.『がんばれ、おめでとう、ありがとう』|文庫で読みたい応援の短編集
『がんばれ、おめでとう、ありがとう』は、文庫で手に取りやすい短編集です。
タイトルに並んでいる「がんばれ」「おめでとう」「ありがとう」は、どれも日常でよく使う言葉ですよね。
でも、よく使う言葉ほど、まっすぐ受け取れない日もあります。
応援したい。
でも、無責任に励ましたくはない。
誰かのまぶしい活躍を見ながら、自分の日々の小さな頑張りは、誰が見てくれるのだろうと思う。
そんな気持ちに触れてくれる作品です。
朝倉かすみさんの短編は、日常の中にある「ちょっと言いにくい本音」をすくい上げるのがうまいんですよね。
長編を読む余裕がないときにも、短編なら一話ずつ読めます。
朝倉かすみさんの作品の入口としても、文庫で読みたい方にも合いそうです。
こんな方におすすめ
・文庫で手軽に読みたい方
・短編集から朝倉かすみさんを読みたい方
・応援すること、されることについて考えたい方
5.『棺桶も花もいらない』|老いと生を見つめる近刊
『棺桶も花もいらない』は、2025年に刊行された朝倉かすみさんの近刊です。
タイトルだけを見ると、少しどきっとするかもしれません。
でも、朝倉かすみさんが「老い」や「死」に触れるとき、そこには重さだけではなく、生活の中のユーモアや、どうしようもなさを抱えた人間らしさがあります。
人生の終わりを考えることは、暗いことだけではないのかもしれません。
何を残したいのか。
何はいらないと思えるのか。
誰と、どんなふうに日々を過ごしたいのか。
そんなことを、少し距離を取りながら考えさせてくれる作品です。
「死」を扱いながらも、読み終えたあとに見えてくるのは、生きている時間の手ざわりなのかもしれません。
こんな方におすすめ
・老いや人生の終盤を描く小説を読みたい方
・重いテーマを少しユーモラスに読める作品が好きな方
・近刊から朝倉かすみ作品を追いたい方
6.『田村はまだか』|待つ時間の中に人生が浮かぶ名作
『田村はまだか』は、2009年に吉川英治文学新人賞を受賞した、朝倉かすみさんの代表作です。
物語は、小学校の同級生たちが集まる場面から始まります。
深夜のバーで、彼らは「田村」を待っています。
けれど、なかなか田村は来ない。
待っている間に、それぞれの人生や記憶が少しずつ語られていきます。
この「待つ」という時間が、とてもいいんです。
誰かを待つあいだに、ふだんは話さないことを話してしまう。
忘れていたはずの記憶が戻ってくる。
自分の人生が、思ったより遠くまで来ていたことに気づく。
タイトルの「田村はまだか」が、読み進めるほどに少しずつ深い響きを持ってくる作品です。
朝倉かすみ作品の入口としても読みやすい一冊だと思います。
こんな方におすすめ
・同窓会や旧友の物語が好きな方
・40代以降の人生を描く小説を読みたい方
・朝倉かすみさんの受賞作から読みたい方
7.『にぎやかな落日』|老いの日々を、静かに見つめる物語
『にぎやかな落日』は、老いの日々を描いた小説です。
中心にいるのは、北海道で暮らす高齢の女性。
持病や家族との関係、ひとりで過ごす時間、不安や記憶。そうしたものが、日々の暮らしの中で少しずつ描かれていきます。
老いることは、ただ弱っていくことではないんですよね。
できなくなることが増える。
誰かに頼らなければいけなくなる。
でもその中にも、腹が立つこと、笑ってしまうこと、忘れたくないことがちゃんとある。
『にぎやかな落日』というタイトルも、どこか不思議です。
落日なのに、にぎやか。
終わりに向かう時間なのに、そこには声や記憶や生活の音がある。
朝倉かすみさんらしい、老いの描き方が味わえる一冊です。
こんな方におすすめ
・老いを描く小説を読みたい方
・家族との距離を考えたい方
・静かな日常小説が好きな方
8.『満潮』|人を思う気持ちの危うさを描く
『満潮』は、人を思う気持ちの危うさを描いた作品です。
誰かを好きになることは、きれいな気持ちだけではないのかもしれません。
「わかってあげられるのは自分だけ」と思った瞬間、人は相手を見ているようで、自分の欲望を見ていることもあります。
『満潮』は、恋愛小説というより、人の心が少しずつ危うい方向へ満ちていく怖さを読む作品だと思います。
朝倉かすみさんの描く人物は、完全な善人でも悪人でもありません。
だからこそ、読んでいて少し落ち着かない。
でも、その落ち着かなさが、物語を忘れがたくするんですよね。
やさしいだけではない朝倉かすみ作品を読みたい方に、手に取ってみてほしい一冊です。
こんな方におすすめ
・恋愛の危うさを描く小説が好きな方
・人間心理をじっくり読みたい方
・少し不穏な朝倉かすみ作品に触れたい方
9.『肝、焼ける』|朝倉かすみさんの原点に触れる短編集
『肝、焼ける』は、朝倉かすみさんの作家としての原点にあたる短編集です。
表題作「肝、焼ける」は小説現代新人賞を受賞した作品で、30代女性のじれったい心情を描いた作品として知られています。
「肝、焼ける」という言葉の感じが、もう朝倉かすみさんらしいですよね。
恋愛も、仕事も、人間関係も、どうにもすっきりしない。
誰かに説明するほどでもないけれど、自分の中ではずっと引っかかっている。
そういう感情を、軽やかさと痛みの両方で描いてくれます。
30代の女性たちの迷いや焦りを描きながら、単純に「前向きにがんばろう」とは言わないところがいいんです。
今読んでも、古びない感情があると思います。
こんな方におすすめ
・朝倉かすみさんのデビュー期の作品を読みたい方
・短編小説が好きな方
・30代女性の揺れる心情を描く作品に惹かれる方
10.『ほかに誰がいる』|憧れと執着が変わっていく怖さ
『ほかに誰がいる』は、憧れや執着が少しずつ形を変えていく怖さを描いた作品です。
誰かに強く惹かれること。
その人を特別だと思うこと。
その気持ちが、いつの間にか自分でも止められないものになっていくこと。
この作品には、若さのまぶしさよりも、若さの危うさがあります。
憧れは、最初はきれいなものに見えるかもしれません。
でも、それが相手を見失うほど大きくなったとき、人はどこへ向かってしまうのでしょう。
朝倉かすみさんの作品の中でも、少しサスペンス寄りの読み味がある一冊です。
静かな日常小説とは違う、もうひとつの朝倉かすみ作品に触れたい方に合うと思います。
こんな方におすすめ
・執着や憧れを描く小説が好きな方
・心理描写の濃い作品を読みたい方
・少し怖さのある青春小説を読みたい方
朝倉かすみをまず読むならどれ?目的別おすすめ

朝倉かすみさんの作品は、どこから読んでもいいのですが、迷ったら気分で選ぶのがいちばん自然だと思います。
| 読みたい気分 | おすすめ作品 |
| 最新作・直木賞候補から読みたい | 『けんぐゎい』 |
| 大人の恋愛小説を読みたい | 『平場の月』 |
| 本好きの物語を読みたい | 『よむよむかたる』 |
| 文庫で手軽に読みたい | 『がんばれ、おめでとう、ありがとう』 |
| 受賞作から入りたい | 『田村はまだか』 |
| 老いを描く物語を読みたい | 『にぎやかな落日』『棺桶も花もいらない』 |
| 少し不穏な心理小説を読みたい | 『満潮』『ほかに誰がいる』 |
| 原点に触れたい | 『肝、焼ける』 |
どれが正解、というよりも、いまの自分の気持ちに近いものを選んでみてくださいね。
朝倉かすみさんの小説は、読むタイミングによって心に残る場所が変わる作家さんだと思います。
『平場の月』映画化情報|公開済み・原作もあわせて読みたい
『平場の月』は、映画化されたことでも注目を集めました。
映画『平場の月』は、2025年11月14日に劇場公開されています。主演は堺雅人さん、共演は井川遥さん。監督は土井裕泰さんです。
映画公式サイトでは、Blu-ray&DVDが2026年4月24日に発売予定と案内されています。
原作を読むと、青砥と須藤の距離感や、会話の少なさ、生活の中にある切実さがじんわり伝わってきます。
映画を観たあとに原作へ戻ると、映像では描かれなかった心の揺れが、言葉の中から立ち上がってくるかもしれません。
反対に、原作を先に読んでから映画を観ると、ふたりの沈黙や間合いをどう映像で受け取るかが楽しみになります。
『平場の月』については、映画化情報やタイトルの意味、あわせて読みたい本を別記事で詳しくまとめています。
原作を読む前に少し背景を知っておきたい方は、こちらも参考にしてみてくださいね。
▶『平場の月』が心に残った方へ|次に読みたい朝倉かすみ作品5選
Kindle・Audibleで朝倉かすみの作品を読むには?
朝倉かすみさんの作品は、紙の本でじっくり読むのもいいですし、Kindleで気になったときにすぐ読み始めるのも合います。
とくに文庫化されている作品は、電子書籍でも手に取りやすい場合があります。
ただし、Kindle Unlimitedの対象作品かどうかは、時期によって変わることがあります。
気になる作品があるときは、Amazonの商品ページで「Kindle Unlimited対象」や「読み放題で読む」の表示があるか確認してみてくださいね。
また、『よむよむかたる』はAudible版も配信されています。
読書会の物語を耳で聴く、というのは少し素敵ですよね。
誰かが本を読み、誰かが語る。
その空気を、音で受け取れるのはAudibleならではかもしれません。
Kindle Unlimited、Prime Reading、Audibleの違いをまとめて確認したい方はこちら。
→ Kindle Unlimitedの料金はプライム会員特典とどう違う?オーディブルとの違いも解説
Kindle Unlimitedを初めて使う方はこちらも参考になります。
→ Amazon Kindle Unlimitedとは?料金・解約・使い方を初心者向けに解説
耳で小説を楽しみたい方はこちらへ。
→ Amazonオーディブルとは?料金・無料体験・使い方・解約まで総まとめ
まとめ|朝倉かすみさんの小説は、普通の日々の奥にある気持ちを照らしてくれる
朝倉かすみさんの小説は、特別な人だけを描いているわけではありません。
どこかにいそうな人。
どこかで会ったことがあるような人。
もしかしたら、自分の中にもいるかもしれない人。
そんな人たちの心の動きを、そっと、でも逃さずに描いてくれる作家さんです。
最新刊から読みたい方は『けんぐゎい』。
大人の恋愛小説を読みたい方は『平場の月』。
本好きの物語に触れたい方は『よむよむかたる』。
文庫で手軽に読みたい方は『がんばれ、おめでとう、ありがとう』。
まずは、いまの気持ちに近い一冊からで大丈夫です。
朝倉かすみさんの物語は、読み終えたあとにすぐ答えをくれるというより、暮らしの中でふと思い出すような余韻を残してくれます。
その余韻が、今日の心を少しだけやわらかくしてくれるかもしれません。


