「泉鏡花文学賞って、どんな文学賞なんだろう」
名前は聞いたことがあっても、どんな作品が選ばれているのか、歴代の受賞作や選考委員までは知らないという方も多いかもしれません。
泉鏡花文学賞は、金沢市が1973年に創設した文学賞です。
これまでには、幻想的な小説だけでなく、時代小説や評論、独自の世界を描いた作品など、ひと筋縄ではいかない魅力を持つ本が数多く選ばれてきました。
この記事では、2026年第54回の最新受賞作をはじめ、歴代受賞作品、現在の選考委員、賞の特徴をまとめています。
後半では、初めて泉鏡花文学賞の受賞作を読む方におすすめしたい作品もご紹介します。
泉鏡花文学賞とは?
泉鏡花文学賞は、金沢市が1973年に創設した文学賞です。
金沢に生まれた作家・泉鏡花の功績をたたえるとともに、鏡花文学を育んだ金沢の風土や文化を広く伝えることを目的として制定されました。
対象となるのは、毎年8月1日を基準として、その前1年間に単行本として刊行された文芸作品です。
小説や戯曲などの中から、公式には「泉鏡花の文学世界に通ずるロマンの薫り高い作品」が選ばれます。
受賞者には、正賞「八稜鏡(はちりょうきょう)」と副賞150万円が贈られます。
泉鏡花の作品や人物そのものについて知りたい方は、こちらでまとめています。
▶ 泉鏡花の代表作・人物像・夏目漱石との関係や文学賞まで総まとめ
最新の泉鏡花文学賞|第54回(2026年)
2026年の第54回泉鏡花文学賞は、2作品が選ばれました。
荒俣宏『文明怪化奇談』(KADOKAWA)
三浦しをん『夜の恩寵』(集英社)
第54回の授賞式は、2026年11月21日に金沢市民芸術村で開催される予定です。
荒俣宏『文明怪化奇談』
幕末から明治へと大きく変わっていく時代を背景に、新聞記者たちが目撃した不思議な出来事を描く怪奇小説です。
文明開化によって新しい科学や文化が広がっていく一方、その陰には説明のつかない怪異も潜んでいる。
史実と怪談が入り交じるような世界は、まさに「現実のすぐ隣に異界がある」ような感覚を味わわせてくれそうです。
2026年3月刊行、全464ページ。荒俣宏さんにとって『帝都物語』シリーズ以来、20年ぶりとなる怪奇小説です。
三浦しをん『夜の恩寵』
『夜の恩寵』は、「カリスマ」をテーマにした5つの物語を収めた作品です。
予知夢、家族、夢の中に現れるもの――。
日常の中にふと入り込む不可思議なものを描きながら、夢と現実の境界がゆっくり揺らいでいきます。
少し不穏でありながら美しい。そんな物語を読みたい方には、入りやすい一冊ではないでしょうか。
泉鏡花文学賞の選考委員は誰?
2026年第54回の選考委員は、次の6名です。
五木寛之
村田喜代子
村松友視
山田詠美
綿矢りさ
京極夏彦
泉鏡花文学賞では、その時代を代表する作家たちが選考を担ってきました。
第1回から選考委員を務めている五木寛之さんをはじめ、受賞経験者がのちに選考委員となっている例もあります。
現在の選考委員については、金沢市の公式ページで確認できます。
泉鏡花文学賞の特徴は?
「泉鏡花文学賞=幻想文学だけの賞」と思われることがありますが、歴代受賞作を見ると、もう少し幅広いことがわかります。
公式の選考対象は、「泉鏡花の文学世界に通ずるロマンの薫り高い作品」。
そのため、現実と幻想の境界を描いた作品はもちろん、言葉そのものに強い個性を持つ作品、歴史や社会を独自の視点から描いた作品なども選ばれてきました。
泉鏡花本人の作品に似ているかどうかだけではなく、
「その作品にしかない世界が立ち上がっているか」
というところにも、この文学賞のおもしろさがあるように感じます。
泉鏡花文学賞の歴代受賞作品一覧|1973年〜2026年
ここでは、第1回から最新の第54回までの受賞作品をまとめます。
| 回・年 | 受賞作品 | 著者 |
| 第1回・1973 | 『産霊山秘録』/『翔ぶ影』 | 半村良/森内俊雄 |
| 第2回・1974 | 『悪夢の骨牌』 | 中井英夫 |
| 第3回・1975 | 『甘い蜜の部屋』 | 森茉莉 |
| 第4回・1976 | 『誘惑者』 | 高橋たか子 |
| 第5回・1977 | 『怪しい来客簿』/『草の臥所』 | 色川武大/津島佑子 |
| 第6回・1978 | 『海星・河童』 | 唐十郎 |
| 第7回・1979 | 『消滅の光輪』/『プラトン的恋愛』 | 眉村卓/金井美恵子 |
| 第8回・1980 | 『わが魂は輝く水なり』/『雪女』 | 清水邦夫/森万紀子 |
| 第9回・1981 | 『唐草物語』/『虚人たち』 | 澁澤龍彦/筒井康隆 |
| 第10回・1982 | 『抱擁』 | 日野啓三 |
| 第11回・1983 | 『鬼どもの夜は深い』/『光る女』 | 三枝和子/小檜山博 |
| 第12回・1984 | 『海峽』『八雲が殺した』 | 赤江瀑 |
| 第13回・1985 | 『殺意の風景』 | 宮脇俊三 |
| 第14回・1986 | 『シングル・セル』 | 増田みず子 |
| 第15回・1987 | 『アマノン国往還記』/『シュージの放浪』 | 倉橋由美子/朝稲日出夫 |
| 第16回・1988 | 『折鶴』/「ムーンライト・シャドウ」 | 泡坂妻夫/吉本ばなな |
| 第17回・1989 | 『野分酒場』/『深川澪通り木戸番小屋』 | 石和鷹/北原亞以子 |
| 第18回・1990 | 『泥汽車』 | 日影丈吉 |
| 第19回・1991 | 『踊ろう、マヤ』 | 有爲エンジェル |
| 第20回・1992 | 『彼岸先生』/『駆ける少年』 | 島田雅彦/鷺沢萠 |
| 第21回・1993 | 『喪服の子』 | 山本道子 |
| 第22回・1994 | 該当作品なし | ― |
| 第23回・1995 | 『夢の方位』 | 辻章 |
| 第24回・1996 | 『アニマル・ロジック』/『フルハウス』 | 山田詠美/柳美里 |
| 第25回・1997 | 『嗤う伊右衛門』/『鎌倉のおばさん』 | 京極夏彦/村松友視 |
| 第26回・1998 | 『道頓堀の雨に別れて以来なり―川柳作家・岸本水府とその時代』 | 田辺聖子 |
| 第27回・1999 | 『箱の夫』/『種村季弘のネオ・ラビリントス「幻想のエロス」ほか』 | 吉田知子/種村季弘 |
| 第28回・2000 | 『ヒナギクのお茶の場合』 | 多和田葉子 |
| 第29回・2001 | 『蕭々館日録』/『幽界森娘異聞』 | 久世光彦/笙野頼子 |
| 第30回・2002 | 『「文壇」およびそれに至る文業』 | 野坂昭如 |
| 第31回・2003 | 『輝く日の宮』/『グロテスク』 | 丸谷才一/桐野夏生 |
| 第32回・2004 | 『ブラフマンの埋葬』 | 小川洋子 |
| 第33回・2005 | 『楽園の鳥 カルカッタ幻想曲』 | 寮美千子 |
| 第34回・2006 | 『悪党芭蕉』 | 嵐山光三郎 |
| 第35回・2007 | 『道元禅師(上・下)』 | 立松和平 |
| 第36回・2008 | 『ぶるうらんど』/『草すべり その他の短篇』 | 横尾忠則/南木佳士 |
| 第37回・2009 | 『魚神』 | 千早茜 |
| 第38回・2010 | 『河原者ノススメ 死穢と修羅の記憶』 | 篠田正浩 |
| 第39回・2011 | 『風景』/『大江戸釣客伝(上・下)』 | 瀬戸内寂聴/夢枕獏 |
| 第40回・2012 | 『かなたの子』 | 角田光代 |
| 第41回・2013 | 『往古来今』 | 磯﨑憲一郎 |
| 第42回・2014 | 『妻が椎茸だったころ』/『たまもの』 | 中島京子/小池昌代 |
| 第43回・2015 | 『冥途あり』/『骨風』 | 長野まゆみ/篠原勝之 |
| 第44回・2016 | 『大きな鳥にさらわれないよう』 | 川上弘美 |
| 第45回・2017 | 『最愛の子ども』 | 松浦理英子 |
| 第46回・2018 | 『飛ぶ孔雀』 | 山尾悠子 |
| 第47回・2019 | 『ひよこ太陽』 | 田中慎弥 |
| 第48回・2020 | 『小説伊勢物語 業平』 | 髙樹のぶ子 |
| 第49回・2021 | 『姉の島』 | 村田喜代子 |
| 第50回・2022 | 『陽だまりの果て』 | 大濱普美子 |
| 第51回・2023 | 『水 本の小説』/『あなたの燃える左手で』 | 北村薫/朝比奈秋 |
| 第52回・2024 | 『板上に咲く』 | 原田マハ |
| 第53回・2025 | 『墳墓記』/『奇のくに風土記』 | 髙村薫/木内昇 |
| 第54回・2026 | 『文明怪化奇談』/『夜の恩寵』 | 荒俣宏/三浦しをん |
歴代受賞作は金沢市の公式情報をもとに整理しています。
泉鏡花文学賞のおすすめ受賞作6選
歴代作品は50回を超えているため、「どれから読もう」と迷ってしまいますよね。
ここでは、新しい作品から長く読み継がれているものまで、泉鏡花文学賞の雰囲気を感じやすい6冊を選びました。
『夜の恩寵』/三浦しをん
第54回・2026年受賞
夢と現実のあわいを描いた5つの物語。
予知夢や家族の記憶など、日常から少しずつ現実がずれていく感覚を味わえる一冊です。
「幻想文学は難しそう」と感じる方にも、比較的入りやすい作品ではないでしょうか。
『文明怪化奇談』/荒俣宏
第54回・2026年受賞
文明開化の時代に新聞記者たちが出会った怪異を描く連作。
歴史と怪談の境界を歩くような物語が好きな方には、とても気になる一冊です。
『板上に咲く』/原田マハ
第52回・2024年受賞
世界的な版画家・棟方志功を、その妻チヤの視点から描いた長編小説です。
芸術家本人ではなく、そばで支え続けた人からその人生を見つめるところに、この作品ならではの温かさがあります。
『あなたの燃える左手で』/朝比奈秋
第51回・2023年受賞
ハンガリーの病院で左手の移植手術を受けたアサト。
目覚めた彼につながれていたのは、見知らぬ白人の手でした。
身体とは何か。故郷とは何か。そして「自分」とはどこまでなのか。
静かでありながら、読み終えたあとまで問いが残る作品です。
第45回野間文芸新人賞とのダブル受賞作でもあります。
『妻が椎茸だったころ』/中島京子
第42回・2014年受賞
日常のすぐ隣に、ほんの少し不思議な世界が口を開いている。
そんな感覚を楽しめる短編集です。
短編小説から泉鏡花文学賞の世界に入ってみたい方にも向いています。
『魚神』/千早茜
第37回・2009年受賞
外界から隔てられた島と、そこに生きる姉弟を描いた物語です。
水、魚、身体、愛。
どこか神話のような濃密な世界が広がり、現実なのか幻想なのかわからなくなる感覚があります。
幻想性の強い作品を読んでみたいなら、今でも外せない一冊です。
泉鏡花本人の作品も読んでみよう
文学賞をきっかけに、泉鏡花自身の作品へ戻ってみるのもおもしろい読み方です。
代表作には『高野聖』『婦系図』『歌行燈』『天守物語』などがあります。
なかでも『高野聖』は、深い山の中で現実と幻想の境目が揺らいでいく、鏡花らしい世界を味わえる作品です。
▶ 高野聖の女の正体は?泉鏡花『高野聖』のあらすじと代表作も
泉鏡花文学賞の受賞作を読んだあとに泉鏡花の作品を読むと、「鏡花の文学世界に通ずる」という選考基準が、少し違った角度から見えてくるかもしれません。
まとめ|泉鏡花文学賞から少し不思議な一冊を探してみよう
泉鏡花文学賞は、1973年に始まり、2026年で第54回を迎えました。
最新の受賞作は、荒俣宏『文明怪化奇談』と三浦しをん『夜の恩寵』です。
歴代作品を眺めていると、「幻想文学」という一言だけではくくれない幅の広さがあります。
現実と異界の境界を描くもの。
言葉そのものに惹き込まれるもの。
歴史や人間を、少し変わった場所から見つめるもの。
何を読もうか迷ったとき、文学賞の歴代受賞作から一冊を選んでみるのも、本との出会い方のひとつです。
気になるタイトルがあれば、そこから泉鏡花文学賞の世界をのぞいてみてくださいね。

